自然療法と健康保養地(クアオルト)のすすめ

健康保養地(クアオルト)とは

健康保養地(クアオルト)とは

「クア(Kur)」とは、ドイツ語で、「治療する、療養、保養のための滞在すること」と訳され、「温泉気候保養地などに中長期滞在して、療養・保養をする」ことを意味します。

ドイツ温泉協会では、<健康保養地(クアオルト)>は、「地下物質(温泉、鉱泉、泥、ガス等)、海、気候などの自然条件が病気の治療・予防に適することが、科学的・経験的に実証されている場所」と定義しています。

ドイツには374ヶ所(2007年度)の健康保養地が存在しています。

ヨーロッパ全体で健康保養地の人気は高く、全宿泊者数の約46%を健康保養地等での宿泊者数が占めています。

 

ドイツの健康保養地(クアオルト)の分類

健康保養地(クアオルト)は4つの種類に分類されます。

 

(1)気候療法保養地

森林、山岳などの気候や地形要素を治療素材とする気候療法を行います。

(2)タラソテラピー保養地

海岸で、海洋性気候要素を用いる海洋療法・タラソテラピーを行います。

(3)クナイプ療法保養地

19世紀半ばに、S・クナイプ神父が創設した伝統的なクナイプ式水治療法を行います。

(3)鉱泉・泥療法(温泉療法)保養地

温泉療法や泥療法を主として行います。

 

健康保養地(クアオルト)の条件

 【保養地の条件】

(1)その土地に特有な治療素材と治療手段がある。

(2)気候条件や景色がよい。

(3)目的に沿った適切な保養・療養施設がある。

(4)治療効果が医科学的に証明されている(EBM:Evidence Based Medicine)

 

 【環境の条件】

(1)工場や都市公害による汚染がない。

(2)騒音と交通公害から隔離されている。

(3)衛生上の配慮が十分にされている。

(4)専門の温泉気候療法医が常任している。

(5)訓練された有資格の専門療法師がいる。

※一般に気候療法保養地では、地元の測候所と連絡をとりながら、気温、湿度、気圧、風速、雨量、日照、紫外線などのほか、空気イオン、放射線、花粉なども測定しています。

 

健康保養地(クアオルト)の構成

以下で構成され、長期滞在型の地域となっています。

 

・テルメ(温泉施設)

・クアミッテルハウス(療養処方施設)

・クアハウス(保養公会堂)

・クアパーク(保養公園)

・トリンクハレ(飲泉所、:温泉を飲める場所)

・クリニック、ホテルや旅館

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気候療法とは

気候療法(クリマテラピー)とは

気候療法(Klimatherapie)とは、日常生活と異なった気候環境に転地して治療や保養・療養を行う自然療法です。

気候、天候が人に与える影響(保護、刺激)を活用して、健康づくりを促します。

気候療法の目的

日常生活と異なった気候環境に転地することで、「生体に有害な気候環境から隔離、保護」し、「新しい気候刺激に生体機能が反応し治癒促進、健康増進を図る」ことを目的としています。

 

・地域住民の健康づくりへの貢献

・医療・福祉活動の補完

・地域の自然環境(山岳、森林、海、温泉など)の活用

・医科学的データに基づくいたヘルスツーリズム

・観光の活性化

 

気候療法実施の事例

【ドイツの事例】

ガルミッシュ-パルテンキルヘン(Garmisch-Partenkirhen)ドイツ・バイエルン州

オーストリアとの国境に近い南ドイツに位置する気候療法のクアオルトです。

ドイツの最高峰ツーク・シュピッツェ(標高2964m)を南部に有し、海抜700mの高地に位置します。

冬季オリンピックやワールドカップなどウィンタースポーツの町として知られています。

気候療法は、1970年代よりミュンヘン大学医学部が、現地で長い研究と実験を重ねて開発してきたもので、その治療効果は、ドイツではすでに医学的、生気象学的に実証されています。

安全に歩行できる全長300kmの山岳歩行路を整備し、山岳リゾートとしてのインフラ整備を行っています。

ガルミッシュ-パルテンキルヘンの2004年の宿泊者数は28.5万人で、延べ宿泊数は117.9万人・泊、平均宿泊数は4.1泊でした。

 

【日本の事例】

蔵王上山(山形県)

山形県上山市では、市などで組織する「市温泉保養地まちづくり協議会」が国の元気再生事業を受けて「上山型温泉クアオルト(保養・療養地)事業」を進めています。

上山では医科学的な検証のもと、気候療法の効果が確認され、3コースが日本で初めて気候療法コースとして認定されました。

今後は温泉や里山など、地域資源を活用し、地域で連動した健康づくりのできるまちづくりをめざしています。

 

熊野古道(和歌山県)

和歌山県では世界遺産となった熊野を舞台に健康を通して交流を活発にし、都市も地方も元気にする「熊野健康村構想」を推進しています。

熊野の気候と地形を活用した熊野地形療法 熊野セラピーは、熊野での地形療法を活用したスローステイ(滞在型)プログラムです。

熊野の魅力を最大限に活かし、疲弊した自身の力を呼び覚ます楽しいコンテンツで構成されています。

 

奄美大島(鹿児島県)

奄美市では奄美の自然を生かした滞在型ヘルスツーリズムの実現、奄美アイランドセラピストネットワークの形成、セラピストによるサービスの実施、自然資源を生かした健康に関する特産品の開発を進めています。

奄美の海の資源を活用したタラソテラピー施設を中心に、海岸、原生林など、自然の活力を感じながら健康づくりを行う気候療法と、奄美文化、奄美郷土料理など地域と密着した健康づくりコースの開発を行っています。


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タラソテラピーとは

タラソテラピー(海洋療法)とは

タラソテラピー(Thalassotherapie)とは、海洋性気候のもとで、海水・海泥・海藻・海岸の空気などを健康づくりなどに 活用する自然療法です。 ギリシャ語のタラサ(海)とテラピー(治療、療養)とを合わせた言葉で、海洋性気候のもとで、海水・海泥・海藻・海岸の空気などを健康づくりなどに 活用する自然療法です。

誰でもが楽しみながら健康効果を発揮する健康システムです。

ヨーロッパでは、海の環境を病気の治療や健康づくりに活用するタラソテラピーが、古代ギリシャ時代から医師の処方のもとに行われ、ヨーロッパの人々に親しまれてきました。

タラソテラピー(海洋療法)の目的

海岸での日光浴や大気浴は、新陳代謝を高め、気持ちを落ち着かせ、鼻の通りをよくし、のどや気道について連鎖状球菌などを殺菌する効果があります。

肺活量も増加し、血液循環も高まり、また海の砂には足の裏を刺激する効果があります。

砂浜の渚を裸足で歩くと、波につかり、波が引くことで「冷・温交代浴」となり、自律神経を刺激し、身体の温度調節機能トレーニングにつながります。

また、砂浜を歩くことで、アスファルト等の道よりも砂浜は消費カロリーが大きいため、運動効果も増します。

タラソテラピー施設は、現代社会が 抱える課題を解決します。

 

・地域住民の健康づくりへの貢献

・医療・福祉活動の補完

・観光や地域の活性化に貢献

タラソテラピー実施の事例

【ドイツの事例】

ノルデナイ(Norderney)ドイツ・ニーダーザクセン州

北海で最初のドイツの保養地。

北海の離島であり、北海からの北西の季節風が常に吹きつける寒冷な気候を特徴とします。

18世紀初頭より観光業が島の中心的産業となり、病院、ホテル、保養施設が建設され、1884年、フリードリッヒ海洋子供病院が診療を開始し、本格的な治療、療養の島としての体裁が整備されました。

ノルデナイの2005年の宿泊者数は33万人で、延べ宿泊数は305万人・泊、平均宿泊数は9.3泊でした。

 

【日本の事例】

タラソ奄美の竜宮(鹿児島県奄美市)

海水プールでは、海水の物理的特性(浮力・温熱・水圧・抵抗)を活用した運動療法を行っています。

目的に合せた水治療法、温熱療法等も実施し、地域住民の健康づくり、医療費削減に貢献しています。

また、奄美の自然(海岸、原生林)、文化、奄美食材を使った郷土料理などを組み合わせ健康づくりのためのコースづくりも進めています。

 

し~うらんど海遊館(青森県五所川原市)

冬は地吹雪が吹き荒れる極寒の地域のタラソテラピー施設です。

夏は、景色もよく、十三湖のシジミなど、特産物も多い地域で、タラソテラピー施設と地域資源を組み合わせたヘルスツーリズムも進めています。

旧・市浦村では高齢化と過疎化が進む運動習慣の少ない地域の住民の健康づくりを目的としてタラソテラピー施設を設立しました。

地域住民の健康づくり、高齢者の介護予防に貢献しています。


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温泉療法とは

温泉療法(バルネオテラピー)とは

ヨーロッパ諸国では、古代から温泉を医療に利用しており、バルネオセラピー(Balneotherapie)と呼ばれてきました。

ドイツ温泉協会では、温泉療法とは「地下の天然産物である温泉水、天然ガスや泥状物質などのほか、温泉地の気候要素(自然環境全般)も含めて医療や保養に利用すること」と定めています。

温泉療法は、温泉病院で医師の管理の下で行う慢性病の治療やリハビリテーションなどの「狭義の医療的温泉療法」と、温泉を健康づくり、病気の予防・保養に活用する「温泉ウェルネス」に分けられます。

温泉療法は、原則として現代医科学的な根拠に基づく医療(EBM:Evidence Based Medicine)であることが求められ、温泉浴と同時に各種の水治療、マッサージや温熱療法のような理学療法、温泉プールでの水中運動や屋内外でのレクリエーション的な運動、食事療法、心理的リラクゼーション法などが行われます。

近年では、積極的健康づくりに必要な休養・運動・栄養の健康の三要素と、自然環境(温泉、海、高原、山岳、地形など)や、社会的環境(文化的あるいは伝統的行事、観光資源など)のもつ保健作用を組み合わせて総合的に活用する志向が高まっています。

 

温泉療法の目的

温泉療法は、入浴という物理・科学的な刺激に加え、転地や自然環境や運動による刺激を身体に与えるという意味で、一種の刺激療法であり、刺激に適応することで歪んだ状態にある身体のリズム(体内時計)を整える療法です。

 

温泉療法は、現代社会が 抱える課題を解決します。

・地域住民の健康づくりへの貢献

・医療・福祉活動の補完

・観光や地域の活性化に貢献

 

温泉療法実施の事例

【フランスの事例】

エクス・レ・バンのテルメ・ドマルリオーズ(Therme de Marlioz)フランス・ローヌ-アルプ地方

フランス最大の天然湖ブールジェ湖のほとりに位置する風光明媚な温泉保養地でにあります。

泉質は含カルシウム・硫黄泉で、37℃に加温(源泉は、17~18℃)して使用しています。

この施設に専門医は常駐しないが、専門医の処方やアドバイスに従って、洗浄、吸入、噴霧、エアロゾル療法等が行われています。

エクス・レ・バンには、主にリウマチ性疾患を対象とする国立温泉治療施設もあります。

 

【ドイツの事例】

バード・クロッツィンゲン(Bad Krozingen)ドイツ・バーデンブルテンベルグ州

二酸化炭素泉の医学的研究や臨床応用に最も熱心に取組んでいる温泉保養地のひとつです。温泉はカルシウム・ナトリウム-硫酸塩・炭酸水素塩水で、遊離二酸化炭素ガスは2200mg/lです。

地元住民だけでなく、フランスやスイスから多く訪れ、水中運動、日本式浴室、ファンゴ浴(火山灰を温泉で溶いて泥状にしたもの)などの温熱療法用の施設が整備された総合温浴施設、遊歩道のあるクアパーク、ハーブ園、クアハウス(憩い、文化等の施設)、音楽堂、飲泉場、カジノなどを、保養・療養しながら楽しむことができます。

近くには、リハビリテーション、循環器、リウマチ等の専門病院も7ヶ所(2007年)あり、医療体制も整っています。

 

【日本の事例】

湯の峰温泉(和歌山県)

熊野古道の道筋近くに、熊野本宮温泉泉があります。およそ1800年も前から熊野詣でに行く前に禊ぎ(湯ごり)に、また詣でた後の癒しに、由緒ある温泉地として知られてきました。

泉質は「含硫黄-ナトリウム-炭酸水素塩・塩化物泉」であり、大きな浴槽のほかに、蒸気サウナ室(室温50℃ほど)があり、床下にある源泉に直結した小川に90℃を超える高温の温泉水が流れ、すき間から温泉蒸気と硫化水素が絶えず室内に充満するようなつくりとなっています。

 

クアテルメ宝泉坊(愛媛県西予市)

疲れた身体を癒すだけでなく、もっと健康にという気持ちから、設立した施設です。

伝統的な温泉浴場と、温泉を使用したプール、プールでは温泉の物理的特性(浮力・温熱・水圧・抵抗)を活用した運動療法を行っています。

また、目的に合せた水治療法、温熱療法等も実施し、地域住民の健康づくりに貢献しています。


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